海洋生命科学部
担当教員
〔特任教授〕 渡部 終五 〔准教授〕 神保 充 〔講師〕 安元 剛
〔特任教授〕 工藤 俊章 〔特任准教授〕Md.Shaheed Reza
研究分野の概要
海洋生物には生理活性物質,すなわち微量で強い生理作用を発揮する低分子化合物やタンパク質が数多く知られているが,それらは海洋生物ならではの新奇な構造を持つものが多く,医薬品のリード化合物や研究試薬として利用されている。当研究室では生化学的な利用価値のある化合物や酵素,共生など複雑な海洋生態系の謎を解き明かすための鍵となる生理活性物質について,その探索,構造解析および作用機構の解明を行っている。
講座重点研究等主な研究課題
【研究室重点研究等】
1) 無脊椎動物と微生物との共生の分子メカニズムの解明
海洋無脊椎動物の多くは微細藻類・バクテリア等の共生微生物を持ち,その共生関係がエネルギーの獲得・物質生産に重要な役割を演じている。しかしながら,生活史の上でどのように共生が成立し,維持されるのかは解明されていない。本研究室ではサンゴを含むいくつかのモデルを用い,化学生態学的手法での共生メカニズム解明を目指している。
2) 海洋細菌による炭酸カルシウム形成機構の解明
海洋生物の炭酸カルシウム形成機構には未解明の部分が多く残されている。昨今の地球温暖化問題を考える上でも,正確な炭素循環を理解するため炭酸カルシウム形成メカニズムを解明することは必要不可欠である。当研究室は培地中に炭酸カルシウム顆粒を形成する海洋細菌を用いて研究を行っている。この海洋細菌はカルシウムを含む人工培地中で培養を行うと菌体外に方解石の炭酸カルシウムの顆粒を形成する。このメカニズムを解明することで海洋生物の炭酸カルシウム形成機構について検証していきたい。
3) 水圏生物の環境適応の分子機構の解明
水圏生物の多くは変温動物で,環境水温の変化に常時さらされている。また,環境水中の塩分の存在は水圏生物に特有で,これら水温や塩分の変化はときに水圏生物のストレスとなっている。水圏生物がこれらストレスにいかに反応して生存しているのか,その分子機構を生化学および分子生物学的に解明することを目指している。
【学外研究機関との共同研究】
1) 深海生物に含まれるレクチンのクローニングと共生への関与の検討 (JAMSTEC)
深海の無脊椎生物の中には,化学合成細菌に依存した生存戦略を行っている。特にシロウリガイやハオリムシは体内に共生細菌をもつ一方,消化管は退化しているので共生が生存に必須となっている。この共生において,糖結合タンパク質であるレクチンが共生にも関与している可能性がある。そこで,それぞれの生物の持つレクチンの化学構造を明らかにするとともに共生細菌との関連など生物機能を解明することを目的とする。
2) クラゲの捕食に関わる因子の探索(新江ノ島水族館)
アマクサクラゲは他のクラゲを捕食するが,同種のクラゲを捕食することはない。しかしながら,当研究室は,アマクサクラゲにミズクラゲの粗抽出液を与えることにより,捕食と同様な行動を起こすことを見いだした。そこで,この行動を指標として捕食に関わる因子を検討することを目的とする。
3) 水圏生物ゲノムの機能解析(水産総合研究センター(予定))
水圏には陸上には見られない多種多様な生物が存在し,それらは独特の生存戦略を持っている。その生存戦略をゲノムレベルで明らかにし,水圏生物資源をより有効に利用するための基礎的知見を得る。また,水圏微生物の生態系をメタゲノム解析によって明らかにし,環境保全に役立てる。